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キラキラ

第3章 フラワー

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「パスタでいいよね?」

潤が棚からパスタ鍋を取り出して振り返る。

「なんか手伝うよ」
と、横に立ったものの、
「茹でるだけだから大丈夫」
と、追い出されたから、スツールに腰かけて、潤の顔を眺めることにした。

朝より、全然スッキリした表情。少し疲れた感じもするけど、そこは、1日仕事してきたから、のことだからだろう。

「前に、ソースたくさんつくって冷凍してたのがあるから、それにするね」

「ん」

手早い動きで、準備を進める潤が、チラリと顔をあげて、俺を見る。
何か言いたげにしてるから、優しく促してやる。

「なに?」

すると、潤は、一瞬言い淀んだあと、何気ない風を装って、

「……翔くんさ……今日も、泊まってくれんの?」

早口で言うもんだから、ドキッとしてこっちまで、息が止まった。

「……どうしようかな」

ちょっと逃げ腰な返事になってしまった。

ずるいやつだ、俺は。

ザザっと大きな音をたてて、お湯を流しながら、
潤の声が、

「泊まってよ」

と、いい放った。

たちのぼる湯気のせいで、潤の顔が見えない。

と、いうことは俺の顔も見えないだろう。

俺は、唇を一瞬かんで、……頷いた。

「……ああ。じゃ、そうするよ」

一瞬の静寂。

湯気がひいた。

潤は、泣きそうな、嬉しそうななんともいえない顔で、俺を見つめて動きをとめてた。


泊まるということの意味。
俺らの、関係。

それらすべてがつながって、言葉をかわさなくても、理解できた。

潤がしたいこと。

……俺が決めたこと。


「……もし、また熱があがるようなことがあれば、即寝だぞ」

「……分かってるよ」

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