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キラキラ

第29章 バースト7



予想通りといえば予想通り。

ラストシーンからエンドロールに切り替わり、せっかちな客が、まだ暗いのにパラパラと席を立ち始めるなか、俺は、スンと小さく鼻をすすって親指で目尻に浮かぶ涙をぬぐった。

暗闇で見えないから、と、上映中、翔と繋いでいた手に、きゅっと力がこもる。

ふっと顔を隣に向けたら、翔が優しい顔で、俺を見つめていた。


その眼差しが温かくて、俺は照れくさくて顔をふせる。


「……いい映画だったな」

「うん……」


小さく囁かれて、うなずいた。
原作を読んで、これはヤバイ。絶対泣く、と覚悟はしていたけど、案の定、終盤から俺はボロ泣き。


周りに恥ずかしいから、あまり鼻もすすらないようにしていたから、途中から呼吸困難になるかと思った。


「……大丈夫か」


静かに離された手が、ごそごそとポケットを探る気配ののち、しばらくしてハンカチを渡してくる。


ありがと、と、俺は翔のハンカチにせめて鼻水がつかないように、涙をふいた。


「…………ごめん」

「……いや」


楽しそうに首を振り、翔は俺の耳元に唇を寄せた。


「……可愛すぎて今すぐ襲いたい」

「…………っ」


低く囁かれて、心臓が跳ねた。


「跳ぶじゃん……やめてよっ」


ひそひそと怒鳴り返して、ハンカチを突き返したら翔は、くくくっと肩を揺らして笑った。




ぼわんと、観覧席にオレンジのライトが灯る。

画面が白くなり、上映終了。
最後まで座っていた観客も、いっせいに立ちあがり、出口を目指す。

カップル席はさすがに座らないが、最後列に近い二人席に座っていた俺らは、人が少なくなってから立ち上がろうと、しばらくじっと座っていた。

すると、通路をはさんだ同じ列から出てきた集団の一人が、


「あれ」


と、声をあげた。


ふっと何気なく顔をあげたら。


「君もきてたんだ。いい映画だったね」


にこりと爽やかに言ってくるのは、いつぞやの本屋でであった馴れ馴れしい男。


「……ああ、まあ」


と、うなずいたら、そいつは心配そうな顔で続けた。


「目元が赤いよ。ちゃんと冷やさないと腫れるよ」

「……はあ」


お節介なやつだな、つか、泣いたのバレバレじゃんか……これは、恥ずかしいぞ。

俺は、コクコクと頷いて目をそらした。




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