
キラキラ
第29章 バースト7
「悪かったな……昨日は」
翔が、ごめん、と言うから俺は慌てて首を振った。
昨日の俺の大暴走の原因についてというなら、悪いのは誰でもない。
あえていうならば、リミッターはずれちゃうくらい動揺する俺自身の弱さが原因。
「違うよ……悪いのは俺だよ。頼んなくてごめん」
言って、コク……と、水を一口飲んだ。
レモンのおかげで爽やかな口当たり。
「おいし……」
カラカラの砂が水を吸うように、水分がじわっと体に染み渡ってゆくのが分かる。
翔が、いとおしそうに俺の髪を柔らかくすいてくれるのが心地いい。
かずも智さんもいるのに、このまま翔に甘えたくなり、そんな自分を必死で律した。
「……おまえ、飲まず食わずで寝ちまったからな。パンケーキでも焼いてやるよ。待ってろ」
笑顔でキッチンに向かう翔にうなずき、俺はその思いを振り払うように、コクコク、夢中で飲み干した。
「はぁ……なんか生き返った……」
思わず呟いたら、かずがクスクス笑った。
「昨日、俺、八時くらいに帰ってきたんだけど。潤くん、もう寝てんだもん。ビックリしたよ」
「はは……カッコ悪いね、俺」
決まり悪くて、肩をすくめる。
ふふっと笑ったかずは、手にしていた本をゆっくり閉じた。
そして、そういえばさ、と、ちょっと遠慮がちに切り出した。
「噂で聞いたんだけど……最近相葉くんって人気すごいの?」
「え……?」
「なんか……ほら、あの学祭のイベントのせいでさ。校門前で出待ちしてる子がいるってほんと?」
頼りない色をした茶色の瞳を見つめ返した。
あちゃ……バレてんじゃんか。
まあ、しょうがないよなぁ。
隠しようがねーもんなぁ……。
俺が、苦笑いしてうなずいたら、かずは、ふーん……、と言って、ソファの背もたれに寄りかかった。
一気に不安げな顔になったかず。
……ほらな、そんな風な顔になると思った。
余計な心配させたくないから、あんまり知ってほしくなかったんだよなぁ……。
恋人が人気があるのは嬉しい反面、すごく不安になる気持ちって分かるから。
心が通じあっている、とわかってはいるけど、やっぱり、性別の壁や、周りの目というのはどこまでもつきまとうもので。
