
キラキラ
第30章 hungry 2
高校生の小遣いでは、高級ブランドものや、羊革などのレザー品はちょっと無理。
優しそうな店員さんのすすめもあり、大野さんが選んだのは、モノトーンのツイード素材のもの。
上品だし、暖かそうだし、申し分なかった。
「ありがとう、櫻井」
「いいえ。きっと喜んでもらえますよ」
「うん」
嬉しそうにしてる大野さんを見てると俺もうれしい。
でも……。
さて。このあとどうする?
早々と任務完了してしまって。
じゃあね。って、言われたらどうしよう。
まだ3時だけど??
悶々と考えていると、横から遠慮がちに、
「あのさ……」
と、言われて、どきりとして、姿勢をただした。
「はい」
「あの……このへん画材売ってるとこない?」
「……画材……ですか」
「最低限のものしか持たずに実家でてきちゃって……少しずつ買い足したいと思ってるんだけど、どこになにがあるか分からなくて……」
そういうことならば、と俺は、張り切って、このへんの地図を思い浮かべた。
そういえば、この人方向音痴だった気もする。
まだ、この先も一緒にいれることが嬉しかった。
俺は、こっちです、と、言うのに、逆に歩き始めた大野さんを、慌てて連れ戻した。
そっと背中に触れる。
大野さんが俺を見上げて、照れたように笑った。
華奢で、ふんわりと暖かな背中だった。
それから。
駅から少し離れた、小洒落た生活雑貨の多いホームセンターで。
真剣な顔で油絵具や、キャンバスを見て回る大野さんは、俺にいろいろと教えてくれた。
残念ながら芸術のセンスは壊滅的な俺だけど、大野さんの一生懸命な説明に、知識だけは増えていくような気がした。
油絵具って、こんな高いんですか!!とびっくりする俺に、そうだよ、と大野さんはコロコロ笑う。
大野さんとじゃなきゃ、絶対に来ることのなかった店。
不思議な香りのする店内をぐるりと眺め。
柔らかな照明のしたで、楽しそうに、画材を選ぶ大野さんを見つめ。
……時間のたつのも忘れて、俺たちは長いことその店に留まっていた。
