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キラキラ

第30章 hungry 2

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授業が終わり。
部室でジャージに着替えていると、雅紀が面白そうに顔を近づけてきた。


「どしたの?なんか今日は朝からずっとご機嫌じゃん?」

「え……そう?」

「なんかいいことでもあったのか?」

「……別になにもないよ」


さすが、雅紀。鋭い。

俺は、肩をすくめて、スポーツタオルを首にかけた。
ロッカーを閉め間際、扉についてる鏡をみると、我ながらしまりのない顔をしていた。
なるほど、と、思った。


「……彼女でもできたの?」

「……んなわけねーだろ」

「……だよね」


からかってくる雅紀に、平静を保ちながら否定してやると、彼は少しホッとしたようななんともいえない複雑な顔になった。

不安なんだな……と、ちょっと申し訳なく思う。


恋愛ご法度なバスケ部に、色よい話は無用。
キャプテンの雅紀が、気にかけるのも分かる。


わかってるさ……そんなこと。


でも、この場合は恋愛には入らないよな?
だって、完璧な片思いだもの。

伝えることのない想いを抱えるのは自由だろ。
しかも性別越えちゃってんだからさ。


と、ここまで考えて。



……なんだか自爆してね?俺。


我ながらちょっと笑ける。


大体、余計なことをあれこれ考えてゆくと、行き詰まるに決まってる。
そう感じた俺は、雑念を払うように、両手でパンっと顔を叩き、おっしゃ、行こう!と、声をあげた。


せっかくの昨日からの幸せな気分、無駄にしてなるものか。


テンションをあげていく俺に、雅紀は俺の背中を、分かったというように、ポンポンと叩いた。






「は?なんか文句あんの」

「いや、さっきのタイミングじゃ、遅いからもっと……」

「うるせーな、お前が早すぎんだろーがよ」



隣のコートで練習をしている一年生の間に不穏な空気が漂ってることに気づく。
ちょっとした小競合いの気配。


雅紀に目配せすると、雅紀は、ドリブルしていたボールをとめた。

みんな強くなりたいのは同じだから、たまにはこのように熱くなることもある。

しかも今は、年明けにある新人戦のスタメン争いが、それぞれの気持ちの根底にあるから、自然と皆熱くなっているのは否めないし。


チラリと壁際に目を走らせたら、……間の悪いことに、顧問である松岡はちょっと席をはずしているようだ。





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