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キラキラ

第30章 hungry 2


その店は、大野さんの住む街にあった。

初めて降り立つ駅から、大野さんの案内で、商店街に向かう。

おばあちゃんのお店に連れていってくれる、という約束を、大野さんはおぼえていてくれていて。


しゃべりながら歩いていると、商店街の一角にある、見た目隠れ家のような店構えのまえで、大野さんは立ち止まった。


え……ここ……?


「ビックリさせようと思って、ばあちゃんには言ってないんだ」


大野さんは、いたずらを仕掛ける子供のように無邪気な顔をした。
そして、黒を基調としたモダンな造りの扉をそっと、開く。

大野さんに続いて足を踏み入れると、想像とは異なる風景に、目をみはった。


ふわりと漂うコーヒーのいい香り。


落ち着いた照明のもと、手前にいくつかのテーブル。奥にカウンター。


壁には様々なテイストの絵が飾られ、ギャラリーのようになっている。


飾棚には、陶芸作品がいくつも並べられていて。

さらにその奥は大きなフロアがあり、グランドピアノが鎮座しているのが見えた。

見た目よりずっと広い店内に驚きながら、大野さんを追いかける。

何人かの客が、ゆったりとコーヒーを飲んでくつろいでるなか、勝手知ったるというようにスタスタ歩いてゆく大野さん。
その後ろを、恐る恐るついてゆくと、大野さんは、カウンターの前でピタリととまった。


ずらりと並べられたサイフォンコーヒー。
そのうちのひとつのフラスコから、女性がちょうどカップにコーヒーを注いでいて……


「ヨシノちゃん」

「あ、さとちゃん。お帰り~」


大野さんが声をかけると、その人はコーヒーから目を離さないで、明るく返事をした。


……ヨシノちゃん?


ぽかんとしていると、大野さんがそっと俺に耳打ちする。


「ばあちゃんって言ったら怒られんだ。ここでは、みんなヨシノちゃんって呼ぶ決まりだよ」


ばあちゃんって…え?


………?

ヨシノちゃん?この人が?


「……え?!俺もそう呼ぶんですか?!」

「当たり前じゃん」


ひそひそと言っていたら、目の前からにゅっと手がのびてきて、俺の頬ががっちりつかまえられた。


「うわっ」


無理矢理顔をあげさせられると、大きな瞳が印象的な満面の笑みの女性が、カウンター越しに、じーっと、俺の顔をのぞきこんでいた。



「……まあ、イケメン!」


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