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キラキラ

第30章 hungry 2


たまらなくなって、思わず声を荒げた。


離れていくだなんて……!
冗談じゃねえ。
一緒にしないでくれよ!


「俺は……!大野さんの傍を絶対離れません!」

「……そんなのわかんないよ。俺は変わり者らしいから」


大野さんが自嘲する。
俺はかみつくように責めた。


「変わり者?どこがです?」

「………例えば……絵のことを語り出したら、とまんないし」

「俺は、楽しかったですけど」


即答すると、大野さんは、寂しそうに肩をすくめ、視線を泳がせた。


「あと……ガードが甘いって、よく怒られた」

「狙われるってことですか?」

「そうみたい」

「……んなもの、俺が全部追い払ってやります!」

「……あと……俺、方向音痴で、ボケッとしてるし。見た目と違うってガッカリされる」

「俺が案内人になります!」

「どこでも寝るし」

「そしたら俺も一緒に寝ます!」


……バカだね、と、大野さんが苦笑いする。


だけど、どれもこれも、俺にしたら、とるに足りないことだ。

むしろこれまで一緒にいて、全て、いとおしいと思えたところ。
大野さんを好きだと思えたところ。

離れる要因になるはずがない。


「それだけですか?」

「…………」

「…………大野さん?」

「……俺、男だよ」


沈黙の後、ぽつりと大野さんがつぶやくものだから、自信満々に応えた。


「俺もです」

「いいの……?」

「こっちが聞きたい」


そこで、大野さんはようやく笑ってみせた。


「…………」

「…………」


再び訪れる沈黙。



空調の音しか聞こえない授業中の学校はすごく静かで。
当然保健室も静かで。

沈黙すると、お互いの息遣いがきこえそうなほど。

この胸のドキドキも聞こえてしまうんじゃないか、とさえ思う。


視線をおとしていた大野さんが、きゅっと唇をかむのをみた。

そして、ゆっくり顔をあげた。

その顔は、困ったような。
照れたような。

…………前向きな表情で。



「……櫻井」

「はい」

「俺、多分だけどお前のことが好きだよ」

「……はい……え?」

「多分。……だって嫌われたくないから」







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