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キラキラ

第30章 hungry 2



うわ……いい匂い……。


抱き寄せた大野さんの体からはすごくいい匂いがする。
シャンプーの香りなのか、何かつけているのか。

ふわふわした髪にそっと鼻を寄せた。

少し筋肉質だけど、華奢な抱き心地は、このあいだ、どさくさまぎれに抱き締めたときと同じだ。

ひとつ違うのは……おずおずと俺の腰にまわされた腕。


好きな気持ちが通じあえた証のようで嬉しくて嬉しくて。
ますますぎゅっと力を込めて抱き締めた。


「く……苦しいよ……(笑)」

「あ……ごめ……」


はっと、して腕を緩めると、うつむいてた大野さんがクスクス笑いながら、俺を見上げた。


「……」

「…………っ」


バッチリ合う視線。
しかも、くそ近い位置に顔がある。


めちゃくちゃ綺麗な瞳が、まっすぐに俺を見つめてる。


その大野さんの少し潤んだ瞳に、俺の緊張した顔が映ってるのが分かった。


「……」

「……」


何か考えるよりも先に。
吸い寄せられるように、自然と顔を傾け、近づけた。

大野さんが、静かに目を閉じたのが分かった。


「……」

「……」


……大野さんの柔らかな唇に、そっと触れた。


少しだけそのままでいた。


静かに顔を離すと、大野さんが、ほんのりと頬を赤く染めて、俺を見てた。


「……嫌でした?」

「……」


大野さんが、ふるふると首を振った。


良かった……。


俺は鼻をすすり、もう一度、その花のような唇をそっと塞いだ。

一瞬だけ、体を強ばらせた大野さんは、そのあとゆっくり力を抜き、腕をあげて俺の背中にその指を這わせた。


瞬間。


コンコン


「!」

「!!」


保健室をノックする音に、死ぬほど驚いて、大野さんから飛び退いた俺は、ベッドにダイブした。

大野さんも、戸惑う顔で赤い頬を触りながら、カラカラと開く扉の方へ、体を傾ける。


「失礼します……」


聞こえてきたのは、よく知る声。
俺は、ばくばくと鳴る心臓を押さえながら、布団から顔を少しだけ出した。

大野さんが驚いたような顔をする。



「二宮……?」

「あれ……大野さん?……松潤は?」

「職員室だけど……どうした?」

「や、ちょっと……頭痛くて」



……ほんとの病人が来た。


俺は、学ランを手に取り、ベッドを譲るために起き上がった。


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