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キラキラ

第30章 hungry 2


「て、テーブル?」


思わず声が上擦ったのは許してほしい。

俺は、即座に、先生の前に立ち、二宮の視線を少しでも遮ろうとした。
先生も、自分の学校の生徒がいることに気がついたらしく、すっと顔を背け、さりげなく俺らに背を向ける。


ヨシノさんが、手近にあったダスターを、二宮に手渡した。

「どうしたの?」

「すみません、ちょっと水をこぼしちゃって……」

「あらあら。服は?大丈夫?」

「はい、大丈夫です」


言って、大急ぎで席に戻る二宮。

チラリとこちらを見やる坂本先生と目があった。
その怯えたような目は、まさか……?と言っている。
俺はコクコクうなずいてやった。


うちの学校の生徒がいるぞ、と。


それが伝わったのか、先生はそっと、この場から離れようとした。

ところか、すかさずヨシノさんが、先生の腕をはしっと掴む。


「そうだ!マサくん。うちの孫たちにさ、何か歌ってくれない?」

「え……」

「ほら、あそこ。この子の学校のお友だちも何人か来てるの。今日で集まるの最後なんですって……ねっお願い!」


…………まずい。


ハラハラする俺をよそに、ヨシノさんは、店の奥で、こちらがわに顔を向けて座ってる岡田先輩に手まねきして合図をした。

岡田先輩が、ハテナ顔で席を立ってこちらにくる。



……まずい、まずい。



「歌ってくれたら、今日のステージ代、ただにしてあげるから」

「いや……その」


ヨシノさんは、とっておきの条件を出したわ、と言わんばかりに顔を輝かせた。


戸惑うような坂本先生の顔。


……まずいよ、まずいよ!


どうしたらいい?とパニックになってる俺ら。

そんな俺らには全く気づかないヨシノさんは、こちらに歩いてきた岡田先輩を、先生に紹介した。


「ねぇ、岡田くん、まだ時間いいかしら?もうすぐここでライブがあるから、みんなに伝えて?マサくんが歌ってくれるって!」


先生は一言もイエスといってないのに、話がどんどん進んで行く。


「歌……?」


岡田先輩が、きょとんとして、坂本先生を……見た。


「……あっ?!」

「…………っ」


…………万事休す。


「さかも……」


そのとき、唯一俺にできたことは、岡田先輩が先生という単語を口に出せないように、先輩の口を両手でおさえることであった。

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