
キラキラ
第30章 hungry 2
「なにそれ、そんなことないもん」
大野さんは目を丸くして、心外だ、と言ってる。
「いや、そういう悪い意味じゃなくて……」
素直な方だから、すぐ顔に出るだろうな、ってことが言いたいだけなのに、どうやったら伝わる??
俺が密かに焦ってると、
「よく分かるわね、翔ちゃん」
ヨシノさんが、にやーっと笑って首をつっこんできた。
「サトちゃん、隠し事、ほんと苦手よ。嘘ついたら顔に出るし」
「もーっ!ヨシノちゃん、うるさい!」
「挙動不審になるしね。翔ちゃん、黙ってて正解だわ」
「ヨシノちゃん!」
ぷっと頬をふくらます大野さんが、可愛らしくて、俺は、笑ってスミマセン、と言った。
二人きりの時に、もう一度フォローしておこうかな。
子供っぽいところがあるところも、最近分かった大野さんの知らない顔。
それにしても、ライブを最後まで見てしまったから、結構な時間になってしまった。
でも……やっぱりなんとなく別れがたくて。
この店で販売してるコーヒー豆を親に買って帰る、と適当な理由をつけて、四人には先に帰ってもらうことにした。
「楽しかったね……」
30分後、改めて店を出た俺を、送る、という名目で、一緒に出てきた大野さんと、夜道を歩く。
「ほんとですね……でも、やっぱり寂しいな」
俺の言葉に、大野さんは、うん、と笑ってうつむいた。
色素の薄い茶色の髪が、ふわりと影をつくる。
俺は、高校。
大野さんは大学。
4月から別々の場での学生生活が始まる。
……不安じゃない、といったら嘘になる。
大学には、素敵な女子大生もいるだろう。
魅力的な男子学生もいるだろう。
俺なんかが、この先大野さんを繋ぎ止めておくことは、果たしてできるのだろうか。
「……」
思わずため息をつきたくなったが、俺は、逆に凛とした空気を吸い込んだ。
くそっ!…負けるもんか。
空を見上げた。
夜空の星も凍っているようにピシピシ煌めいてる。
ちらりとみた大野さんの口元からはーっと白い息がもれた。
俺は、コートの袖に隠れてる大野さんの細い指を、そっと掴んだ。
おたがい手袋をしてなかったから、びっくりするほど冷たい。
大野さんが、驚いたように俺を見上げた。
でも、振り払われないから。
……勇気をだして、するりと指をからめた。
