
キラキラ
第30章 hungry 2
ちょっとだけ、周りを見る。
幸いなことに前にも後ろにも人はいない。
外灯の光が、ポツポツと続くだけの道のど真ん中。
俺は、大野さんの頬に、そっと手のひらをあてた。
冷たくて、柔らかい。
ん、とつきだされた唇に、顔を傾け、そっと自分の唇を重ねた。
二度目のキス。
ドクドクと鳴る心臓をおさえながら、……いったん離して、目を閉じたままの大野さんの顔を見て。
もう一度。
今度は、柔らかな唇を、チュッと吸った。
大野さんが繋がれた俺の手をはなし、俺にしがみついた。
俺は、離された手のひらで、大野さんの背中を抱く。
大野さんが誘うように口をあけたから、俺は、つられて舌を差し込んだ。
大野さんがちょっとビクッとしたのが分かったけど、俺は構わずに舌をからめた。
やらしいビデオでしかみたことのないキス。
俺も初めてだから、見よう見まねだけど、拙いながらも、本能のままに舌を動かしてみた。
これが、想像以上に気持ちよくて、ドキドキして。
粘膜で触れあうことって、その人の内側により入って、その人とより強く触れあうことなんだな、と、ぼんやり頭のすみで思う。
一心不乱に大野さんの唇を感じていたら、大野さんが突然体を捩り顔を背けた。
「さくら……人……!」
はっと気がつけば、遠くからコツコツと足音が近づいてくるのが分かって、俺は、あわてて手を離した。
二人でその場に佇み、通りゆく会社員を見送る。
心臓がありえない速度で鳴ってる。
唇がジンジンと熱くて。
体も熱い。
「……はぁ……ビックリした」
大野さんが、紅潮した頬で、ふふっと笑ったから、俺もぎこちなく笑った。
「い…行こうか」
歩き出そうとする大野さんをつかまえて、俺は、その小さな体をもう一度抱きしめた。
