テキストサイズ

キラキラ

第30章 hungry 2


「えっと……」

「……ん……?」


俺が言い淀んでいる様を、大野さんは、実に愉快な顔で、促してきた。
さあ言え、と言わんばかりだ。


でもさ、俺にとっては、あまりに高いハードル。


憧れ続けたこの人に、タメ口なんてきけねぇよ!
と、くそ真面目な部分が顔を出す。


唇をかみながら……思う。


……だけど、きっかけって大事……でもあるよな。

この先、この人を名前で呼ぼうなんてタイミング、きっと俺には掴めない。

俺は、ドキドキしながら、唇をなめた。



「んっと……」

「……ん?」



大野さんは、キスをしてたときの艶っぽい表情から一転、いたずらっぽい顔で俺を見上げてくる。


……ってか、この人、サディスティックなところ、きっとあるよね!


ほれ、ほれ、言うてみと言わんばかりに、大野さんは、じーっと俺を見つめる。


「……さ……」

「……さ?」

「さと…………」

「…………」

「し」

「…………それ、つなげてよ」


プーッと吹き出して、大野さんはケラケラ笑った。


「だめです、精一杯」


苦笑いして俯いていた。
大野さんは、そこからお腹を抱えてしばらく笑い続け、あー、おもしろ……と、呟いて。



「……翔」


突如、柔らかな声で俺の名を紡いだ。


……ドキンと心臓がなり、思わず顔をあげた。


優しく笑みを浮かべ、大野さんは駅に向かって歩き出した。
俺は、あわててそのあとを追う。



華奢な肩に並び、徐々に賑やかさを増してきた通りを歩いた。
さすがに人通りも増えてきて、手を繋ぐことも難しい。

しかもさっきのことが尾を引いて、俺は、まともに喋ることもできないでいた。


そして何も言えないまま、改札前についてしまう。


大野さんは、俺に向き直り、小さく笑った。


「……じゃ、またね」

「あ……はい」

「俺、しばらく暇だから、部活ない日は連絡して?」

「……はい」

「翔」

「……っ……は……い」

「じゃあね、智って言って?」

「……」

「好きだよ、智と、どっちがいい?」

「……えっ……」


大野さんは、またクスクス笑った。
絶対、ぜーったい俺のことからかって、遊んでる!!

ストーリーメニュー

TOPTOPへ