キラキラ
第31章 イチオクノ愛
待てー!っとADくんの慌てるような声に、追いたてられるように、俺は闇雲に走った。
小さい体を駆使して、ゴミ箱の影や、消火器の影など、あらゆる死角を走り渡りながら、走りに走った。
でも、いかんせん俺は犬。
虫とかとは違い、歩いてる人たちにもバッチリ気づかれるサイズだ。
いろんな人たちに目撃情報を提供しながら、このテレビ局の中を逃げ回るのには所詮無理がある。
……そうだ!
あそこに身を隠そう!
走り回りながら、ふと思いつき、俺は、いつも自分達の冠番組で使う楽屋の近くの物陰に身を潜めた。
清掃の人が入ったタイミングで、後ろから素早くその部屋に走り込み、すぐ部屋の隅に身を隠した。
清掃のおじさんが、あちこち掃除するあいだ、ひたすら気配を消す。
明日は、幸い収録日。
少なくとも、ここで待ってりゃ、にのが来る。
今から外にでるリスクを考えると、このままここにいるのが一番よい気がする。
どうしたらよいのかわからない、この無茶苦茶な状況のなか、とりあえず、にののそばにいたいと俺は強く思った。
心配だ……。
だって、俺がここにいるってことはさ。
にのの横にいるの、俺じゃねーじゃん!!
悶々としながら、清掃が終わるのを待つ。
ここの楽屋も、おそらく明日まで使う予定はないのだろう。
清掃のおじさんが、パチリと電気を消して出ていったのを確認して、俺はとことこと部屋の中央にでた。
真っ暗だけど、扉の隙間からさしこむ廊下の光で部屋の中がうすぼんやりと見える。
腹へったなぁ……
椅子によじのぼり、机の上に何かないか見渡すが、塵ひとつないピカピカのそこは、ぽつんと花瓶がおかれているだけで。
椅子の下も、鏡の前も、何一つ落ちちゃいなかった。
誰か、クッキーくらい落としていってくれたらいいのに……
ぐう、となるお腹を抱えて、俺はしょんぼりとソファによじのぼった。
ちょっと早い時間だけど、もう寝るに限る。
動けば動くほど腹が減るし、ここでにのを待つと決めた以上、他にやることもない。
念のため、楽屋に誰か入ってきても、俺がいるってすぐに分からないように、ソファの端に積み上げられてるクッションの隙間に潜り込んだ。
夢なら早く覚めてほしい……
心細くなりながら、俺は目を閉じた。
空腹と、この悪夢から逃れるためには、寝るしかなかった。