キラキラ
第31章 イチオクノ愛
自分の運動神経にこれほど感謝したことはない。
ひとしきり格闘して。
姿形がかわっても、おそらく犬らしからぬ、体の動きで、自転車のかごから地面に無事降り立つことができた自分に感動してしまった。
俺……すげくない?
自画自賛しながら、しばらく、あちこち体を眺めて怪我ないことを確認して、俺は顔をあげた。
目の前の大きなテレビ局の建物を見上げる。
……こうしちゃいられない。
こんなことになってる自分の身の心配ももちろんだけど、偽相葉が何を企んでるのかが分からないから、メンバー……特に、にのが心配だった。
だって、あの偽物、俺に「邪魔するな」って言ったし。
それって俺が相葉雅紀って知ってて、自分が偽物って認めてるようなもんだよな?!
そんなやつが、にののそばにピッタリはりついてるだなんて、心配以外の何物でもないって!
マジで、にのに手をだされたら……俺、普通でいられるかわからないぞ!
俺は、短い手足を一生懸命動かして走りながら考えた。
正面玄関は無理だろう。
裏も……鉄壁のセキュリティ。
あとは……車か。
俺の存在は視線が限りなく下にあるからうまく隠れながらなら、出口から駐車場に滑り込めるかも。
それがもしできなくても、出口で張っていて、にのの車が出てきたら飛び出せば、拾ってくれるはず。
考えながら、関係者出口のあたりにやってきた俺は、スロープの端をそろそろ降りていった。
別の車に轢かれたら洒落にならないし。
見つかってつまみ出されてもかなわない。
幸いにも地下に通じていくその道はだんだん暗くなっていって、身をかくすには好都合だった。
ガードマンさんたちの足元をするりと通り抜け、駐車場に潜入成功して安堵した俺は、広い広いフロアを走り出した。
にのの、移動車ってどれだっけ??
一番理想的なのは、にのが車に乗るときだ。
近寄って、それこそ可愛く鳴いたら、にのは絶対抱き上げてくれる。
そしたら、絶対傍を離れないぞ!
なんなら一緒に車に乗ろうとすら思う。
……でも、にのの今日のスケジュールは、収録のあとどうなってるんだろう?
俺は、走りながらうーん、と考えた。
収録終わってからなんて知らないや。
……例え恋人であっても、翔ちゃんじゃあるまいし、みんなのスケジュールなんか把握してないしなぁ。