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影に抱かれて

第10章 蜜事

幸いなことに、階上の人物は侵入者の存在にはまだ気付いていないようだ。

リュヌは一段づつ静かに階段を上がって行った。

金属音は不規則だが、絶え間なく続いている。

階段を半分ほど上がり、一体何の音なんだろう……と思った時、リュヌの耳にはすすり泣きのようなものが聞こえて来た。

ジュールが泣いている!

思わず階段を少し駆け上がったリュヌだったが、その声がジュールのものではないことにはすぐに気が付いた。

こういう声は聞いたことがある……

リュヌの中に、あのパーティーの夜の少女たちの声が蘇った。学生たちの間を舞いながら上げる嬌声。そして時折混ざる、この苦しそうな……すすり泣きのような声。

それは女性が快楽を感じた時に出すものだ。

最後の扉の前の階段を上がるとき、心臓は破れてしまいそうなほどに音を立てていたが、その音も、はっきりとしてきたあの声に掻き消されてしまいそうだった。

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