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影に抱かれて

第2章 月と太陽

「いつだってリュヌ、リュヌと……。本当にジュールは仕方ないなあ。家庭教師はどうしたんだ」

そう言いつつも、伯爵にはジュールを叱る気はないようだ。伯爵はジュールに甘く、時にはリュヌにさえ甘い為、夫人はそのことでよくジャンに愚痴をこぼしていた。

「よくお出来になるから勉学の方は問題ないでしょうな。それより、ジュール様は他の人間にもう少し心を開いていただけるといいのですが……」

「ジュールは……ますます難しくなってきたな。家内とも最近あまり口をきいていないようだ。リュヌに対して見せる笑顔はまだ可愛いものなのになあ……」

もともとヒステリックなところのある夫人に、ジュールはあからさまに疎ましいような態度を取るようになっていた。

「それにしても、リュヌはますます美しくなるな。まるで少女のようだ」

「……使用人たちはまるで天使のようだと噂しています」

「天使……なるほどな。いっそ女に生まれていれば……いや、そんなことを言っても始まらないな。それよりさっきの話だが、前々から勉学の話はしていたのか?」

「いえ、私も初めて知りました。リュヌはああ言っておりましたが、遠慮しているだけかと……」

「……分かっているよ」

伯爵は何か考えを巡らしながら次の枝に手を伸ばした。

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