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第1章 リッツ N×A
「もう開けていい?玄関。」
「いや、ダメ。」
「もー…。何分ここにいるんだよ…。」
大野さんの家の玄関のドアの前で、
もうどれくらいこうしてるんだろ。
荷物を持ったままの潤くんは、初めこそ
「意外と可愛いとこあるんだな。」
なんて言ってくれてたんだけど、
もうかれこれ10分。
そろそろ潤くんからも不機嫌オーラが
漂ってきている。
「これなら待っててくれるほうが
良かったかも…。」
「今更何言ってんだよ。
もう俺開けるよ?」
「嫌だ、俺が開ける。」
今度こそ覚悟を決めて。
ドアに手をかけてゆっくりと開いてく。
「ただいまー。」
潤くんが俺の後ろから声を出す。
俺は静かに、そろーっと入ってく。
するとすぐに、パタパタと
スリッパを鳴らす音が聞こえてきて、
「まつじゅーん、おかえり。遅かったねぇ。
何買ってきたのー…
え…。」
ケラケラと笑いながら入ってきたかと
思ったら、
俺の顔を見てフリーズしている
目の前の愛おしい恋人。
ずっと会いたかった恋人。
会いたくて会いたくて、
堪らなかった人。