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ビタミン剤

第15章 陽だまりの午後



初めての出逢いはレッスン場の一室
振り返らなくてもすぐにわかったよ
俺たち2人の運命が交差したその瞬間だった。

言葉を交わすまで少し時間がかかったかな

言葉を交わしてしまえばどんどん距離は縮まって、デビューする前の俺たち2人は将来を真剣に悩んで考えてよく話し合ってたんだ。


俺はどっちにしても翔ちゃんと共にしようって決めてたから、いわば一緒に悩んでるフリ?だったけど


だから嬉しかった。

初めてのキスは夕陽で真っ赤に染まったこの家の二階、2人きりでいた翔ちゃんの部屋だった。
まだ付き合うとか好きだとかもまったく意識をしてなかった翔ちゃんから突然の行為


もしかしたら
翔ちゃんの中の眠れる記憶の断片がそうさせたのかもしれない。

そう思えたらうれしくて
俯いて頬にひと筋だけ涙を光らせた俺に慌てて、必死で謝ってくれる翔ちゃんがいてた。


…翔ちゃん
冗談、ふざけてなの?

違っ、違う!
冗談とかじゃなくて
ふざけてとかでもねえよ
けど、マジでごめん。
不安そうなニノ顔見てたら
なんかすっげえ胸の辺りが…
上手く言えないけど
ニノにキスしたくなった
泣き顔とか見ると
めっちゃ抱きしめたいって思う




ねえ、翔ちゃん
思いだして、俺たちはもうずっとずうっと昔から
今際の際で、お互いの腕の中で命尽きていってたんだよ
翔ちゃんのその両腕はずっと俺だけのものだったんだ
はやく…だからはやく、俺をおもいだして


あの日
言葉にできない祈りを
聞こえぬ言霊として
翔ちゃんにそっと贈った


翔ちゃんはニノって俺の名前を優しく呼んで抱きしめてもう一度キスをしてくれた。

くれない色に染まった部屋の中の鮮やかな夕陽の色が、初めてのキスの想い出の色


でも、俺たちがちゃんと付き合い始めるには
もう少し時間が必要だった。



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