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ビタミン剤

第16章 千夜一夜物語


Sside


エレベーターを降りて来て
ふらふらした足取りで立止まったと思ったら
じっと見つめてきて、ふにゃりと微笑みながら、ゆっくりと近付いてきて
首に両腕を伸ばして抱きついてくる。


「夢でもいいや…翔ちゃん大好き…」



そうつぶやく雅紀の体温はやけに高く感じた。

強引に鍵を奪って部屋の中へ入らせてもまだ状況が飲み込めてないのか、ぼんやりした様子。
冷蔵庫の中の冷えたドリンクをもたせても手にしたまま飲もうとしないから、
意を決して口移して飲ませてやった。


ん…ぁ、んん…っはぁ



「まーさーき。俺、誰かわかる?」

「ホントに…翔ちゃん?夢…じゃない…の?」


まだ夢見心地の中にいるような雅紀。
俺を見つめる瞳の中には驚きと困惑がごちゃ混ぜになってるようだ。

「雅紀に逢いに来た
ちゃんと返事してないからな。」


伝えた言葉を鼓膜が留めようとしないのか、
それとも理解する処理が追いつけてないのか
口をぽかんとひらいた惚けた表情。

笑ってやってもまだ表情は変わらない。



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