きみがすき
第15章 *ジュウヨン*
でもまだお昼ちょっと過ぎ。
急に帰ろうって言ったら、相葉ちゃんのことだから、きっと気を使うかも。
だから自然に…
「ん~。寒いけど気持ちいぃ。
俺、冬の海すきなんだよね。」
寒くて更に猫背になっていた背筋を伸ばす。
相「そうなんだ。俺はどっちかって言うと夏がすきかなぁ?」
「うん。相葉ちゃんは夏!って感じだよね。
冬の海ってさ、夏と違って人が少ないし、何処か寂しいイメージだけど、俺はそんな雰囲気が落ち着くの。」
えっと自然に自然に…
相「冬の海ってあんまり来たことなかったけど…なんかわかるかも。静かに時間が過ぎていくみたいな。」
そう言って俺の隣で相葉ちゃんもゆっくり伸びをした。
「そう、そんな感じ!
…うん。満足。…じゃぁ帰ろっか。」
相「え?!急に?!てかもう?」
「うん。俺の目的は達成できたし。もうちょー満足!今日は連れてきてくれてありがとう。」
ほんとはまだ帰りたくないけど、精一杯笑ってみせる。
相「なんで?!だってまだ来たばっかりだよ?」
困惑気味の相葉ちゃん。自然に帰る方向に持っていったつもりだけど、…唐突過ぎたかな?
「うん。でも寒いし、もう帰ろう。」
ここまで言っちゃったし、もう後に引けなくて困っている相葉ちゃんを残して、駐車場へ足を向ける。
相「…ちょ、大ちゃん!待ってよ!」
「えぇ待たない。帰るよー。」
相葉ちゃんに背中を向けたまま返事をする。
「あ、」瞬間、ぐるんっと回る世界。
おでこに当たる温もり。
相「…ねぇ俺、なんかした?」
すぐ耳元で聞こえる困ったような声色の掠れた声。
目を反らすからじゃん。そう思いながらも違うと無言で頭を振る。
相「…じゃぁなんで…怒ってるの?」
逃がさないとばかりに、ぎゅうっと自身の体に締め付ける腕。
「…怒ってない。」
怒ってなんかない。ただすきな人との距離に辛くなっただけ。
まだ気持ちも伝えてないのに、受け止められず逃げたくなる俺は弱い人間だ。
相「じゃぁなんで?…なんで泣いてるの?」
見上げた先には、心配そうな、でもやっぱり優しい顔。
こんな状況でも、その顔にぎゅっとしてしまう心臓。
もう、いっそのこと言ってしまおうか。
聞いてくれる?ねぇ、相葉ちゃん。