きみがすき
第16章 *ジュウゴ*
大「居た!翔くん!」
俺を見つけて早足に近づいてくる。その顔は不機嫌。
「おーそーいー。」
大「おーそーいー。じゃないよ!
5分毎にメール送ってくるのやめてよね!
全然集中できなかったじゃん!」
あらあらご立腹。
でもこうでもしないと今の智くんなら、すっぽかしかねないからね。
ま、そこは抜かりなく。
「ごめんごめん。はい。お・わ・び。」
待ち時間で買っておいた物を渡す。
大「なに?……わ、〇〇堂のりんごパイ!
翔くん、ありがとう!」
途端に機嫌を直す、単じゅ…いや、素直な智くん。
なんだ、思いのほか元気そうじゃん。
…良かった。
**
大・櫻「乾杯」
あれから移動して飲み屋。ではなく定食屋に入った。
大「定食屋でも個室ってあるんだねー。」
ゴクッと控え目にビールを喉に流し込み、きょろきょろと個室を見回す。
「こういう方が落ち着くでしょ。」
俺にとって、智くんが何で悩んでるかはさして重要ではない。誰だって悩むことはあるし、時に傷つくこともある。
そうやって人って成長していくもんだと思う。
と、いうのを最近俺が学んだ。
でもだからって、それで体調を崩すんだったら別だ。
目的は、智くんにちゃんと食べてもらうこと。
だからつまみが多い飲み屋ではなく、定食を注文しなきゃならないこの店を選んだ。のに…
こいつは…
大「冷ややっことぉ、漬物かなぁ。」
サイドメニュー。
「しょうが焼き定食を2つ。大盛りで。」
だから勝手に注文する。
大「そんなに食べるの?翔くん、また太るよ?」
「俺と!貴方のね!
食え!そして太れ!」
大「えー、鯖の塩焼き定食の方が良かったのにー。」
ぶぅぶぅ文句口調ではあるが、顔は楽しそうだ。
確信犯め。追加注文したろーか。
…まぁこんだけ元気なら心配なさそうだな。
「智くん、仕事、抱え過ぎなんじゃない?
俺が口出すことじゃないけど。」
大「…う~ん。あれもこれも引き受けてたら大変なことになってた。あはは。」
しっかりと主張する目の隈に皺を作りながら、へらっと笑う。
「たく、なにやってんの。」
…てかさ、
さっきっから、引っ掛かってるんだけど…
この人、妙に可愛いくなってないか?
なんで?