きみがすき
第17章 *ジュウロク*
ゆっくりと、少し楽になった体を起こす。
別に…怒ってる訳じゃない。
そりゃお姫様抱っこは嫌だったけど。
じわじわと…会えたことが嬉しくて、でも向かい合ったらどうにかなりそうで…
それに…引かれた手。
あの時、翔くんと目が合った。翔くんは特に驚いてなくて、笑って手を振っていた。
意味分かんないよ…。
ー コンコン
松「大野さん、入ります。」
ノックをし入ってきたのは松潤…手にはグラス。
松「起きてて大丈夫ですか?…顔色はさっきより良いみたいだけど。はい、水です。」
松潤の手からグラスを受け取る。
「…ありがとう。…あの、相葉ちゃんは?」
松「あいつなら、買い出し、どっかに置いてきたから取りに行かせましたよ。」
ぁ…
「それ…きっと俺が倒れたときだ…ごめん!」
松「いや、置いてきたのは雅紀の判断。それに大野さんと話がしたかったから丁度良かったし。」
そう言って、にこりと笑った松潤の顔は、直ぐに真剣なものになる。
松「時間が無いんで本題にいきますけど、大野さんさ、雅紀のこと諦めたんじゃないの?」
「え…?」
松「“あれ”から、なんもしないってことはそういう事だと思ってたけど。俺は。」
真っ直ぐに俺を見る鋭い瞳。
『あれ』というのは、きっと俺が相葉ちゃんに気持ちを伝えた事だ。仲の良い松潤が知ってても不思議ではない。
「それは…」
松「まさかさぁ、1回告ったくらいで振り向いて貰えるとか思ってたんじゃないよね?」
「っ…」
相葉ちゃんに握られていた手に力が入る。
松「あれ?否定しないってことは図星?
大野さんって、とんだ夢見る夢子ちゃんなんですね。」
はは、と渇いた笑いを漏らす。
松「ま、今日は偶然会っちゃったみたいだし、それは仕方ないけど。
体調悪いとこ申し訳ないけどさ、タクシー呼んだから、雅紀が帰ってくる前にここから居なくなってくんない?」
そう、俺から視線を外さず告げた。
『中途半端なことはしないでください。』
以前、松潤が俺に警告した。
怒ってるんだ。
俺が相葉ちゃんにしたことを
振られたからって、それで諦めたことを。
…でも、
遅くなっちゃったけど、やっと気がついた。
終わりじゃない。諦めたくない。
ここからだって。
もう1度、ぎゅっと手に力を入れて、
言葉を発する為に息を吸った。