きみがすき
第17章 *ジュウロク*
し…ん、と静まりかえった休憩室。
聴こえるのは、俺のあがった呼吸音。
じりじりと攻め寄った果てに、相葉ちゃんの背中はロッカーにぶつかった。
相葉ちゃんの前髪は乱れ、綺麗だと思った瞳に影をつくる。
俺はというと、さっきまでの威勢は、あっという間に何処かへ身を潜め
やってしまった…
と、後悔さえしてしまう始末。
ガンを垂れていた顔は、徐々に下がり、どうしよう、と相葉ちゃんの肩に額が触れる。
もう、相葉ちゃんも俺自身さえも、今どんな顔をしているかもわからない。
ただ、止まることなく出てくる涙だけが、この部屋で唯一生きてる様に感じた。
きっとそんなに時はたってない。と思う。
相「ぁの、さ…」
少し掠れた声で始まった言葉で、また時が動き出す。
相葉ちゃんの手が、俺を両腕に添えられる。
こんな時でさえ、その仕草でさえ、ぎゅうと心臓を締め付ける。
相「大ちゃん、…俺ね…」
「いやだ!聞きたくない!」
反射的に耳を塞ぐ。
こんな薄っぺらな物で、遮断できるなんて思ってない。
けど、相葉ちゃんから聞かされる言葉が、恐い。
聞きたくない。
この期に及んでまだ、いや、また「ごめん。」と言われることが恐い。
今度こそ、心が壊れてしまいそうで、更に両耳に当てた手に力を込めた。
相「大ちゃん、聞いて?」
「やだ!」
相「大ちゃん?」
耳を塞ぐ手に相葉ちゃんの手が触れる。
「やだ!聞きたくない!」
自分でも何してんだって思う。
ただの駄々っ子の様だ。
耳だけじゃなくて、目もぎゅっと閉ざし、逃げる。
あぁ…なんて弱いんだろう。
その隙間からぽろぽろと溢れる涙。
相「大ちゃん。」
「やっ…」
キラっと明るくなった視界。
相葉ちゃんが、俺の顔を上に向かせたから。
思わず、開けた視界の先には、相葉ちゃんの顔。
でも、みるみる視界はボヤけて見えなくなる。
「…やだって言ったのに…」
「俺…今…また振られたら…もう…」
相葉ちゃんになんて言おうとしてたのか、いまさら良く覚えてない。
けど、伝えられずに終わったのは
言葉になる前に、言えなくなったから。
ついさっき、俺が噛みついた唇が、
俺の口を塞いだ。からだ。