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きみがすき

第20章 *きみがすき*



きっと、引っ越したのはただの気分転換とか、そういうのじゃなくて何か他に理由があって、

部屋に呼んだのも、意図があるんじゃないかなって、何となくだけど、そう思った。


相葉ちゃんは、1度俺から視線を外し自分のマグカップをコト。と床に置いた。
そのマグカップからは、温かそうな湯気がたちのぼる。


相「大ちゃんにね、聞いて欲しい話があるんだ。」

そう前置きして、視線を俺に戻した。

その言い方から、とても大事な、そしてとても俺たちにとって大切な話だとわかった。

少しだけ、これから聞く話が怖い。

でも…

相葉ちゃんの表情は、変わらず優しく微笑んでいて、それを見たら、そんな気持ちはすぐに消えていった。


「うん。俺は大丈夫だよ。」

なにが、大丈夫なんだかって話だけど、その時はなんでか大丈夫だって思ったんだ。


相「…ありがとう。」

相葉ちゃんはまた微笑んで、床にあった俺の手に、そっと自分の手を重ねた。


そしてゆっくりと息を吸って


相「俺ね、すきな女(ひと)がいたんだ。」


そんな、言葉から始まった相葉ちゃんの少しだけ昔の話。





少し変わった女の子に

恋をしたのは、大学生の相葉ちゃん。

付き合ってたのは数ヶ月。

初めは、暖かく、幸せな時間を過ごしてた。


でも…


そこからおかしくなったのはあっという間。

妊娠…中絶…金…変な家に、変な家族…

それはまるで、悲劇的で残酷な、映画かドラマの話を聞いているような。

相葉ちゃんから出てくるフレーズを理解するのに必死だった。

『さよなら』とメモを残して消えたのは彼女。


相「未練は無いよ。」

本当だよ。と笑う相葉ちゃん。

相「ただね…ずっとずっと消えなくて
俺が、もっとしっかりしてて、知識もあって、経済力があったら、何か違ったんじゃないかなって…。」


『騙された』とは決して口にしない。

だから、俺も言わない。

それは…相葉ちゃん自身が一番わかっていることだと思うから。


相「前の家はね、大学の時から住んでたの。
今思うと、なんであの家にずっと住んでたんだろうって。」


ーきっと、嘘だって思いたかったんだろうね。


と、相葉ちゃんは笑った。


その変わらない笑顔に…胸が苦しかった。

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