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きみがすき

第25章 *に*



俺の言葉に、不思議そうな顔をしている彼を見る。ま、二宮くんにとって良いかは微妙だ。

平気でこーゆー事するからね。この人。
大変だよ。と心の中で密かに伝える。


「さぁ…て。そろそろ行こうか。
智くん。起きて?歩ける?」
軽く体を支えていた腕で肩を揺する。

大「…うぅ…」

もぞもぞ。と動き出した智くん。

と、

大「ぅ…う…ぎもちわる……」

…は?

大「ぁ…は、きそ…」


櫻・二「「えっ?」」

慌てて顔を覗けば、その顔は青白い…
うぷっ。と体を揺らし自分の手で口を抑えた智くん。

「ちょっ…!待て!ここは駄目だ!」

マジで駄目!道の真ん中だ!


大「…おえっ……!」


ぁ…

………




二「櫻井さん。水…。」
どうぞ。とビニール袋から出された爽やかなパッケージのペットボトルが2本。

「…ありがとう。」

智くん用と、あれを洗い流す用だ。

あ、俺があれを受け止めた訳じゃないよ?




間一髪。吐く前に腕を引いて、路肩の排水溝に連れてった。

と言うか結局リバースできなくて
大「…うぅ……」
しゃがみこみ、唸る智くん。


…こうなると、吐けないと逆に辛いんだよな。
と心配しつつ、華奢な背中を擦る。


二「俺、水買ってきます。」
そう言って背を向けた二宮くん。その背中から視線を智くんへ戻しつつ
「智くん。自分で吐ける?」
と声をかける。

はぁ…はぁ…と肩で息をしながら、力無く首を振る。

…だよね。やったことないもんね。
「じゃぁ俺がやるよ?いい?」
と苦しそうに歪む顔を覗く。


大「…ぅん…して…」
弱々しく小さく返ってきた声。
俺を見上げる瞳には涙が溜まっている。


…おい、フレーズ…に顔。
やめろよ馬鹿。

仕方がないとわかっていても、盛大に舌打ちをしてやりたい。その気持ちを抑え左腕のシャツを捲り、鞄に入っているウェットティッシュで手を拭く。

「苦しいと思うけど、吐かないと余計辛いから。」
そう。智くんと言うよりは自分に言い聞かせ、少し血色が悪くなっている唾液で濡れた唇から、俺の指を差し入れた。




で、今。

「水、飲める?」
ベンチの手摺に掛け置いた鞄をクッションに、身を預けている智くん。

その声にうっすらと目を開けた智くんは、ゆるり。と体を起こして、こく。と水を口に含み
またそこに身を預けた。

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