きみがすき
第29章 *ろく*
いや……違う。
雅紀は、そんな気持ちで人と付き合わない。
雅紀が、そんな中途半端なこと絶対にしない。
相「新しいスタッフかぁ…誰かあてでもあるの?」
「うん。いつも助っ人で来てくれてる田中くん。あの子、真面目だし、将来自分の店持ちたいって言ってたから適任かなってさ。」
相「田中くん…か。いいんじゃない?俺は賛成。」
そう言って、うんうん。と頷く。
「ん。わかった。今度、田中くんに話してみるよ。」
相「潤。いつもありがとね。経営については、潤に殆ど任せきりでさ…。」
「何言ってんだよ。雅紀が居てくれるから俺が自由に動けてるんだよ。こっちがサンキューだよ。」
相「潤こそ何言ってんのー。
って、なんかお礼言い合っちゃったね。」
あはは。と笑う雅紀に俺もつられる。
うん。この笑顔。
あれはもう過去の話だ。
.
相「お疲れさまー。」
「おう。お疲れ。」
そんな挨拶をしながら、店の前で雅紀にじゃ。と手をあげる。俺達の車の駐車場は真逆。
う~ん。と伸びをしながら駐車場へと足を進める。
俺も…最近かずに会えてない。
携帯に《お疲れ様。おやすみ。》とかずらしい文章。
ふふ。と笑って、家に帰ったら返信しよう。
そんな事を考えながら、家路に着く。
ガチャン。とロックを外し開けたドア。
当たり前だけど、真っ暗な玄関。
慣れてはいるが、やっぱり少し寂しい。
「ただいま」
と、独り言を呟いて玄関の明かりを付ければ…
あ…
足元に、普段は見ない靴。
焦る気持ちを押さえながら、リビングには行かず、静かに寝室をドアを開ける。
チンマリ。と盛り上がった布団。
それが小さく上下する。
そっと忍び足で、そぉっ。と壁を向いている顔を覗き込めば…
かずだ。
スースー。と気持ち良さそうに寝息をたて、ぐっすりと眠っている。
最近ね。会えない日が続くと、こうして会いに来てくれるんだよ。
いいよね。家にすきな人が居てくれるのって。
疲れなんて吹っ飛ぶよね。
黒く、少し硬めの髪をそっとすく。
昔は派手に染めたり、パーマあてたりしてた髪。
もうすっかり落ち着いた。
ニ「ん…おかえり…」
「…ごめん。起こした?」
ニ「…んー…………」
と直ぐに聞こえてきた寝息。
その白い頬に、すきだよ。の気持ちを込めて、キスを落とした。