きみがすき
第29章 *ろく*
「………」
確かに、釣れない。
先週は大物が釣れたけど、それ以外は全くだったからね。
ここ最近を振り返ると、不漁だ。
まぁそんな時もある。
…
……ん?
俺は何しにここに来たんだっけ?
そう、釣りだ。
いや、違う。
確かめに来たんじゃん。
すっかりこの青い空、青い海、潮風の臭い。に流されるところだった。
あぶねー。
「ねぇ…」
イチ「ねぇ、おーちゃん。」
「へ?え?何?」
気が付けばなくなっていた鼻唄。
イチ「あのさ」
…
イチ「教えて欲しいんだけど」
きっと…
「なに?」
きっと、この人は…
イチ「おーちゃんの恋人って、どんな人?」
視線は海を見つめたまま。
心配。
なんだよね。
お兄ちゃんの事が。
あの日、翔くんが言っていた事と俺の考えが正しいなら、知っているんだと思う。
弟と仲がいいって言ってたもんね。
イメージとは全然違かったけど。
『おーちゃんは、違うよね?』
あれは俺へのメッセージ。
警告なんかじゃない。
俺が、信頼できる人なのか、安心できる人なのか。
心配。
だったんだよね。
それで、俺を探しに来てくれたんだよね。
だから…ちゃんと答えたい。
「…俺さ、中学生の頃ね。皆から からかわれてたんだよね。女みたい。だとか、人形みたい。だとか。」
イチ「え…?」
「初めはさ、言い返したりもしたんどけど、言い返せば言い返すほど、エスカレートしてきちゃってさ。」
イチ「うん…」
「だから、やめたの。自分の気持ち言うの。そうしたら、皆つまんなくなったのかな?からかわれなくなった。あぁ良かったって。
…けどね、喋んなくなった俺の周りには誰も居なくなっちゃった。」
イチ「……」
「高校上がっても、それがずーっと尾を引いちゃって、もう自分の性格は元々こうだったんじゃないかなって思うくらい。喋れないの。
自分の事も喋らないから、相手の事なんてより分からないし。だから余計に距離作っちゃうし。もぉその頃は諦めてたけどね。」
イチ「おーちゃん…」
「で、親孝行の為に行った大学。ただ卒業する事しか考えてなかった。
でもね。そこで凄く大切な友達ができたんだよ。今でも凄く仲いいの。」
ふふ。と笑う俺を、イチは不思議そうに見つめ、でもちゃんと話を聞いてくれている。