きみがすき
第32章 *きゅう*
智さんとその男は、ホテルの前で止まったままで
だから直ぐに潤くんは追い付いて
松「大野さん。」
智さんを呼ぶのと同時に、いまだに智さんの肩を抱いたままの男の手を、肩から剥がした。
大「ぇ……!……え?」
振り返った智さんは
潤くんの方を見るなり
その瞳を大きく見開く
大「……松、潤?」
松「こんな所で何してんの?」
ぶっきらぼうな…でも、トーンの優しい潤くんの声。
…そうだよ。
まだ、そう とは決まったわけじゃない。
大「……」
…
……違うよね?
黙ったのは、こんな所で潤くんに会ったから びっくりしただけだよね?
松「まさかさ…」
「っ智さん!」
でもやっぱり そんな雰囲気に耐えれなくて
大「…ニノ」
少しだけ離れた所にいた俺は、思わず
「ぐ、偶然!
俺達、たまたま通りかかって…ね?
あ、折角だから一緒に飯でも行こうよ!」
智さんに…どういうことなのか聞かなきゃなのに…でもそれが…潤くんの思ってる通りだったら……
そう思うと怖い
聞きたくない
大「……」
松「……かず」
「ほら行こうよ?
ね、潤くん。ここら辺でオススメのお店知ってる?」
空回ってるのは百も承知。
でもそうでもしてなきゃ
俺、ここにいられそうもなくて…
「智さん、行こう。」
俺は、智さんの手を取る
っ…
今は夏
けど…智さんの手は
氷のように冷たい…
ゆっくりと顔を見れば
俺を見返す瞳。
表情は…眉毛だけ困ったように下がってるけど
わからない。
「……」
松「……」
大「……」
さっきまで…周りは煩い音で溢れてたと思うのに
今は、耳が痛いくらいに静かに感じて
…
……
誰でもいいから
どうしたら良いか教えてよ
なんて心の中で助けを求める始末
でも、その空気を変えたのは…
*「あぁーーーー!!」
?!!
…
は?!
智さんの隣にいる男。
何?
つーか
まだいたの?
意味わかんねぇと、無性にイラっとした俺は
初めて男に目を向けた。
そこには
髪の毛先をツンツンと遊ばせ
シャツは第3ボタンまで外してんじゃねーの。
つーくらい無駄に着崩した格好。
論外
早く消えろと睨んでやれば
*「和也さん! 潤さん!」
満面の笑顔を返された。