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きみがすき

第34章 *じゅういち*

*大野*




「ご迷惑をおかけしました。」
俺は何度目かの頭を下げた。

「いえこちらこそ、終業前にしなければいけない鍵の確認が抜けてて、こんな時間になっしてまい申し訳ないです。」
「すいませんでした!」
そう頭を下げたのはの鍵の管理を担当している、今年入社した子と、そのグループの先輩。

「いえ、こちらこそ…」

「いえいえ、こちらこそ…」

……


今回は、今後気を付けるように。との注意のみで済んで、でもその後のやり取りで…けっこう遅くなっちゃって、俺は急いで会社を出ようとした…


え?
「雨?!」


目の前には、空から落ちてくる雫。


マジか…さっきは全然だったじゃん。

なんて愚痴ってみても、雨は止む気配はなくて、俺は鞄から折り畳み傘を取り出して、夜でも分かる澱んだ空に先を向けた。


.

バシャバシャバシャ…

いつもより早い歩調


考えるのは、ニノと小林くんのこと
2人キリで大丈夫かな…


…急ごう。



と、

『にゃ…ん』


……ん…?


バタバタ。と傘に跳ね返る雨音と
ザァザァと地面にぶつかる雨音の中に紛れて聴こえた。


少し歩調を緩めれば…


『にゃおん…』



やっぱり
ネコの鳴き声。

ふ。と周りを見回すと…

え…?


足を止めたのは、そのネコには見覚えがあったから。

いや…違う?似てるだけ?
でも……すごく似てる。


少し離れた場所で、俺?を見ているネコ。
そのネコは、俺のアパートのベランダに良く遊びに来る…そう、ニノに似てるなってネコだ。


え でも、家から此処はだいぶ離れてて…ネコの行動範囲って大体決まってるんでしょ?
それに
雨の中。ネコって水苦手なんじゃ…?

『にゃぁ…』

また、鳴いたネコ。
そのネコは、いつから居たのか全身を覆う毛は雨で濡れ、その黄色みがかった毛は、薄い茶色に見える。

早く戻らなきゃ…と思う。けど
何故だかそのネコが気になって
ネコへ向けて一歩足を進めれば


こっち。とばかりにネコが歩きだした。




……

少し大通りから入った場所。
花壇が並んだちょっとした広場。

ネコはそこで、1度振り向いて そして風のように走り去ってしまった。

けど…それよりも俺の意識を持っていったのは


そこに隠れるように丸まった影




「……ニノ…?」



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