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きみがすき

第5章 *ヨン*

*櫻井*




「××近くにある○○までお願いします。」

はぁ疲れた。と手をぶらぶらさせる。
さすがにこの距離を、ほとんど意識のない大人を担いでくるのはキツかった…。

智くんは、見た目華奢だけど、筋肉はあるからね。

タクシーの後部座席に詰め込んだ智くんは、すっかり夢の中。
その少し広角の上がった表情から、楽しい夢でも見てるんだろう。


少し痩せたかな?仕事忙しそうだしね。
ちゃんと食ってんかな。

智くんは、何かに集中したり、熱中すると、自分の体のことは二の次、三の次になっちゃうからな。


と、う~ん…と、むにゃむにゃと何かを話ながら、体の向きを変えて、俺の肩に寄りかかった。

ふわっと、智くんの髪の毛が俺の頬に当たる。
と、同時に智くんのにおい。
『勘弁してよ。』と、何も知らずに呑気に寝ている智くんに、思わず、チッと舌打ちをする。

『俺の気もしらないで。』
大きく溜め息が出てしまった。


でも…そんな智くんを引き剥がさないのは、

このにおいが、智くんが好きだから。だろう。


この気持ちに気が付いたのは、大学4年のころ。
それからずっと。

なげーな。もう6.7年?俺って一途!
…じゃないか、女の子と遊んでたし。

ま、その話は置いといてだ。

俺の智くんへの気持ちを本人に伝える予定は、一切ない。
普通好きな人とは付き合いたい。とか思うんだろうが、俺は特に思わない。
不意打ちでキスされたり、無防備にくっつかれると、苦しくなることはあるけど、そんな気持ちにも、もう慣れた。


だって、俺にはもともと
選択肢なんてないんだからね。

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