きみがすき
第1章 *ゼロ*
そんな仕事人間だったから、だろうな。
無意識に仕事、仕事になって寂しい思いをさせた。今更ながらに思う。大切に思ってなかった訳じゃない。俺なりに大切にしてた…つもりだった。
おかしいと思ったときには、後の祭り。もう終わってた。それさえも気がつきさえしなかった。
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昨日は珍しく早く仕事の切りがついて、久しぶりに彼女と食事でもしようと、誘った。
待ち合わせ場所に来た彼女の顔はどこか暗く、あれ?とは思ったけど、仕事で疲れてるのかな?
程度で、さして気にしなかった。
「どこいく?」と声をかけると、
「…他に好きなヒトができたの」と震える声が返ってきた。
一瞬何を言われたのか理解ができず、「好きなヒトができた?」とアホみたく同じ言葉を繰り返した。
ごめんなさい。の言葉と共に大きな瞳からポロっと溢れた涙。
その瞬間、自分がいかに彼女に寂しい思いをさせていたか、無理をさせていたか、やっと気づいた。
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彼女とは、大学の時に出会った。同棲こそしてなかったが、お互いのアパートに行き来したり、彼女がご飯をつくってくれたり。仕事が落ち着いたら、ゆくゆくはこの人と結婚するんだろうなって思ってた。
甘えてたんだ。
彼女の優しさに、ここ数年は彼女の誕生日さえ、ろくに祝ってあげてなかった。
気が付いたら28歳。女性にとっては結婚だって意識する歳になってた。
正に独りよがり。
人として成長だ?全然成長してなかったわ俺…。