兄達に抱かれる夜
第10章 可愛がって貰えたみたいだね
「和兄様っ」
カチンときて、思わず、睨みつけてしまう。
相変わらずの美形。
腹立たしい程の、綺麗な顔立ち。
デリカシーのない言葉に傷付いて、頭に来てしまうのに、涼しい顔をしている。
「ああ、その顔、俺は昔から、君を困らせるのが、好きみたいなんだよね?」
しなやかな指が、あたしの頬を挟んで、チュッと唇が重ねられた。
抗えない、手の力が、あたしの頬を掴むから、身動き取れない。
唇が重なる瞬間、一瞬見えた和兄様の瞳が、明らかに笑いを含んでいる事に気付いた。
「〜〜〜〜〜〜!」
それが分かって悔しいのに、抵抗出来ない。
チュッ、チュッと軽くキスをされて、耳元にもキスをされた。
ふざけて、からかってるだけなんだと、分かるのに、割り切れない。
少し前まで、あたしの体に、翔太がキスをしてくれた。
体の隅々まで、知り尽くされて、キスをしてない場所がないくらい。
「……やめてっ、和兄様、あたし……」
翔太が好きなの。
言ってしまいたい、衝動に駆られる。
言ってしまえば……。
お母様にも言ってしまえば……。
それで、あたしは、翔太のお嫁さんになれるの?
あたしの事、なんとも思ってなんかいないのに……。
そこまで考えて、ぞくりとしてしまう。
「……知ってるよ、恵麻は昔から、翔太が好きなんだよね?」
ふいに、あたしの耳元でキスをしながら、和兄様が囁いた。
「……えっ?」
急に冷水を浴びせられたように、体が冷えていく。
「俺達が気付いてないとでも思った?
……だけど、あいつは、あの年で社交界デビューして、人一倍野心家だ。
人を手懐けて従わせるのもうまいし、恵麻の事だって、出世する為の道具としてしか思ってないよ?」
そんなの。
分かっている。
こっそり、起業して、海外にも出掛けて、いろんな人とあって。
パーティに出席して、何故だか、有名なデザイナーをエスコートしたとか、お母様と一緒だったとか。
結婚相手をそこで探してるんじゃないか、とか。
使用人が噂していたのを、あたしは知っていた。