兄達に抱かれる夜
第7章 お前を連れ去りたい
不思議な夢を見たせいか、目を覚ましてしまった。
時計の針は1時過ぎ、せっかく寝ていたのに、不思議な気分でベッドの上で体を起こす。
ガチャガチャ。
あたしの目の前で、部屋のドアノブが回り、ドアが開いた。
スルリと入って来た姿を見て、びっくりして固まってしまう。
「…………よお」
ガチャリ。
部屋の鍵を閉めて、ゆっくり振り返る、翔太兄様が、ニヤリと笑った。
「翔太兄様……っ、な……んでっ……鍵は……っ」
浴衣姿の翔太兄様、サラリとした髪はお風呂上がりなのか、まだしっとり濡れたままで、石鹸の香りがした。
あたしのベッドサイドに座り、持っていた紙袋から饅頭を取り出した。
「……食えよ」
「やっ、こんな時間に、それよりもどうやって入ったのっ?」
「こんな饅頭なんかで、人の心が動かせるなら、安いモンだと思わねぇか?
家の使用人に毎日こんなのやってるだけで、あっさり手引きしてくれる奴もいる、俺を応援してくれる奴もいるんだよ?」
「なに、それっ?」
「まあ、他の兄貴には真似できやしないけどな?」
饅頭を紙袋に戻して、いつものように、テーブルの上に置く。
「だから俺はその気になれば、いつでもどこでもお前を抱く事が出来るんだよ。
康にいは、どうだったか?優しかっただろ?」
どういう意味?
「翔太兄様は……その気になれば、今日みたいな事も、やめさせる事が………」
出来るって言うの?
翔太兄様の瞳が、サッと陰った。
あたしから、目を反らして、呻くように、呟く。
「それは……今の俺にはまだ……どうする事も出来ない……」
その言葉を聞いた瞬間、あたしの中で、色々な感情が嵐のように入り乱れた。
どうしてなのか、分からない。
強く感じたのは。
激しい、落胆、だった。
あたしは、康兄様の事は嫌だと思わなかった。
多分、和兄様だって、そうだと思う。
翔太兄様だって、何だかんだで受け入れてしまう。
それなのに、どうして、そんな事を考えてしまうのだろう。
まるで、翔太兄様に邪魔をして欲しいような、そんな事、出来る筈なんてないのに。