兄達に抱かれる夜
第8章 君は誰かな?
朝食を食べ終わって、席を黙って出て行く。
和兄様は朝食の間もあたしに気遣うように、話かけてくれたのに、あたしは冷たい態度を取ってしまっていた。
「……恵麻、今日、迎えに行くから」
「来なくていい」
和兄様の顔を見ないで、冷たく言ってしまう。
「………恵麻」
先を歩く、あたしの手が、和兄様に掴まれた。
グイと引き寄せられて、優しく抱きしめられた。
「何かあるのなら、一人で泣かないで、俺に言ってよ?
俺は恵麻の笑ってる顔と、怒ってる顔が好きなんだからね?」
俯いてる顔を、至近距離で覗きこまれて、綺麗な瞳が艶やかに煌めいて、さらりとした和兄様の前髪があたしの頬をくすぐる。
近すぎる距離にドキドキして、胸を突っぱねようともがいた。
「何もないから……っ」
目を反らして、離れようとする腕が掴まれて、不意に唇が重なる。
「……んっ……」
軽く触れるだけの、キス。
和兄様の唇は、寒さのせいなのか、冷たかった。
「必ず、迎えに行くからね、いつかのように、逃げないでよ?
逃がさないけどね?」
すぐ離れていく、暖かい体温、背中を向けて、肩越しに振り返る。
その瞳がいつものように、からかってるような光じゃなく、真面目な光がゆれて、戸惑ってしまう。
何も言えなくて、綺麗な後ろ姿をただ見ていた。
冷たかった唇が、熱く感じた。