
兄達に抱かれる夜
第8章 君は誰かな?
「…………ねぇ、環はどうして、女の子の格好をしているの?」
暫く黙って歩いていて、聞きたかった質問を思い切ってする。
環の綺麗な顔が、ふっと冷たい無表情になった。
「このままだと、変に目立っちゃうし、ちょっと買い物に付き合ってよ、恵麻」
環が指差したのは、お洒落なメンズの服屋さんだった。
「いいけど、環ってばっ」
あたしの手を引いて、さっさと服屋に入って行く。
何だか適当にTシャツ、パーカー、ジーンズをマネキンが着ているのをそのまま脱がせて、サイズの確認をして、試着室に入って行く。
「恵麻は楽しみに待っててね?」
イタズラっぽく笑って、カーテンが閉められた。
試着室でごそごそと環が着替える物音に、変にドキドキして待っていた。
「ふう〜」
環の足元だけが見えて、カーテンの向こうに落ちているモノを見てギョッとする。
黒髪の長い髪の毛はウィッグだった。
だから、どうして、こんな事をしているの?
「はい、おまたせ」
カーテンを開いて、男の子の格好になった環を見て、息を飲んだ。
黒髪のさらさらな髪は、男らしく短髪だけど、前髪が長め。
黒いジーンズとパーカー、中に着ている白いシャツ、どこからどう見ても、格好いい男の子。
雰囲気が違っただけで、あたしと同じ顔には見えなくなるから、不思議だ。
紙袋に制服とウィッグをしまいこんで、明るい表情で店を出る環。
全て一括のカード払いで精算して、荷物を家に届けるように指示を出していたけど、いいのかな?
戸惑いながらも環に付いていく。
手を引かれて、歩いた。
こんな事が。
昔も、あったような、気がする。
あれは…………。
なぎなたを振り回す、お父様。
うずくまって、泣いてるのは…………あたし。
手を引かれて、その場から、逃げ出した。
いつも、連れ出してくれた、暖かい手。
安全な場所にあたしを隠してくれて、どこかに行く環。
いつも、決まって傷だらけで、戻って来ていた。
あれは何だったんだろう。
幼い時は意味が分からなかった。
でも、今は、知らなくては、いけない気がした。
