兄達に抱かれる夜
第8章 君は誰かな?
「違うの、兄様、あたし達大事な話をしていただけで……っ」
喧嘩でもはじまりそうな雰囲気に、環のせいで、あたしが居なかったと、思って怒ってるんじゃないかと思って、違うのに、環は……。
そんなあたしの顔を見て、分かったのか、和兄様は、優しくふっと笑った、「ああ、大丈夫だよ恵麻」
安心するように、あたしの頭の上に手を置かれて、ポンポン優しく叩かれた。
「環、だったかな、君は油断出来ない、俺達にとっての脅威になるかもしれない、だから、悪いけど恵麻は連れて帰るからね、俺の所へね」
和兄様があたしの体をガシリと掴んで、肩の上に担ぎ上げられた。
短い悲鳴を上げて、
「恵麻っ」
環の呼ぶ声が聞こえるのに、和兄様が素早く走り出す。
店の前に赤いフェラーリがあって、車のドアが開いて、助手席にそっと下ろされた。
運転席に和兄様が乗り込んで、あたしのシートベルトを締めた。
エンジンをかけて、走り出す車、シートベルトがキュッと閉まる。
振り返れば環が追いかけて来ていた。
何かを叫んで、立ち尽くしている。
土御門家は割と近所にある。
また、きっと、会える……。
「和兄様……、ごめんなさい……」
運転をしている和兄様、真面目な顔で、前だけ見ている。
「恵麻は、そんなに俺の事が、嫌いなのかな?」
前を見つめたまま、呟いた言葉は、酷く、悲しそうだった。
「そんな事ないっ……ごめんなさいっ、あたし、皆と寄り道がしたかっただけでっ、和兄様なら、許してくれるって、思って……それで……っ」
赤信号になって、車がゆっくり停止して、和兄様があたしの顔を見て、くっ、と笑い出した。
「寄り道って、恵麻、それだけの事だったの?」
「だって、こんな時じゃないと、出来ないんだもの」
「じゃあ、俺の日はいつでも寄り道していいから、その変わり、帰る時は連絡して、まあ、逃げても、追いかけるけどね?」
「いいのっ?ありがとう和兄様っ」
和兄様の手があたしの頭の後ろに、そっと乗せられた。
助手席に身を乗り出して、あたしの顔の前で、斜めに傾く和兄様の綺麗な瞳が甘く光る。