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第5章 X'mas oxo
「貴方は所詮男。
いくら光太郎と仲がいいからっていっても女には勝てないのよ。
まぁ、人間の本能ってやつね。
元々光太郎はあんたとちがってストレートだしね」
去り際に玄関まで見送りに来た木兎さんの想い人になんとも爽やかな笑顔でそう言われた
俺はなにも言わずに玄関を出て、扉がしまった瞬間に膝から崩れ落ちた
目の前がぼやけて頬を暖かいものが伝う
―俺の人生が、終わった。
下を向くとズボンに染みができる
―今までで一番好きになった人だった
右手にある鍵を力の限り投げる
―この人に人生をかけてでも支えたいと思っていた
投げた鍵が音をたてて壁に傷を作る
―この人のためなら俺は死んでもいいと思っていた
なにも持っていない両手で顔をおおう。
―この人が笑顔なら俺はどうなったっていいと思っていた
息の吸い方と吐き方が分からなくなって意識がぼうっとする
―どうしても覆せない理由でその人を失った
息の仕方がわからないまま絨毯の敷いてある床を窓まで這いまわる
―でも、その人の最後であろう俺に向ける顔が、俺のなかで一番好きな彼だけの笑顔だった
息ができないなら止めてしまえと歯を食いしばって窓枠をつかんで立ち上がる
―雪が降ってる
金属製の花瓶に生けられたポインセチアをまとめて放り投げて中の水をぶちまける
―この人のために生きられないなら俺は、生きていても仕方がない
今朝変えたばかりの花瓶を持って窓を叩く
―案外簡単に割れるものだ
割れた窓ガラスをさらに壊して窓枠に乗る
―なかなか楽しかったですよ
窓枠を勢いよく蹴って外へ出る
からだの向きの制御ができず右へ左へと揺れる
もうコンクリートにぶつかるというときに目を閉じる
「赤葦!!!!」
