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愛すべき存在

第1章 愛すべき存在

「九時くらいになるけどいい? 親大丈夫?」

「はる……と?」

「何?」

 ……そうか。無意識に押した番号は春斗のだったんだ。私は蚊のなくような声で言った。

「待ってる」

「で……どこにいるの?」

「大阪駅」

「気をつけて待ってろよ。よかった、観光ついでにまだこっちに居て」

「分かった。ありがとう」

 何でだろう……和樹じゃなくて春斗なのに落ち着く。和樹に振られて電話した日もそうだった。

 あ~何であの日、春斗を受け入れるのを拒んだんだろう。きっと怖かったんだ。前に進むことが。

「電話切るけど、メールはしとくからな」

 春斗は優しかった。苦しいのに。寂しいのに。春斗のおかげで落ち着いている。

 その後、春斗は電話を切ったけど本当にずっとメールしていてくれた。

【もうすぐ着く】

【待ってる】

 そして、その後もくだらないメールをしていると、時間は早く過ぎ、

【着いた】

とメールが来た。その直後、

「沙希っ!」

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