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FRIENDs -ars短編集-

第4章 ここにおいで A×M

Mサイド


それなりに上手くやってきた。

自分の正体隠して、仕事も見つけて
普通の。ごく普通の人間として生きてきた。


俺は人間と吸血鬼のハーフ。


普段は人間として生きてるけど、
食料って言ったら血。

でも、さすがに人間の血は吸えないから
いつも動物の血が少し混ざった肉を食ってる。

そんなに美味しいとも感じないけど
空腹をしのぐため。


他は普通に、太陽に当たっても大丈夫だし
牙は隠せるし、十字架も好きじゃないけど
生理的に受け付けない、なんてことはない。


だから、食べ物以外は普通に暮らしてきた。


なのに…







「…潤、吸血鬼界に戻ってこい。な?
その方がお前のためだ。」


何でかは知らない。

でも急に父さんにそう言われた。


「なんで?俺、何も不自由してないよ?
上手くやってけてるし。」


吸血鬼界に戻らなければならない理由が
俺にはわからなかった。

父さんは黙ったまま立ち尽くしている。


俺の父さんは不思議な力を持っている。

それは未来予知。

これから起こることを見ることができる。


俺の未来に、何かあるのだろうか…

だから呼び戻そうとしてるんだろうか…


それでも俺は、この世界に残りたい。
吸血鬼界になんか戻りたくない。

あそこに戻ったら、俺はまた
“決まり”に縛られるんだ。


一応、吸血鬼界ではプリンスな俺は
向こうに行くと色々と面倒くさい。

やれパーティーだ、習い事だ。
そんな生活はもう二度としたくない。



俺は父さんの言うことに耳も傾けず
自分の家へ帰って行った。


その翌日のことだった。

今まで生活の支えとなっていた仕事を失った。


父さんはこのことがわかって…


1人前に父さんに楯突いた俺は
そんな潔くあっちに行くわけにも行かず。

諦めて再就職先を探した。


でも、そんなとんとん拍子に行くこともなく
再就職は極めて難しいものだった。


そのうち、だんだんとお金も無くなっていき
肉も買えるか買えないかの寸前まで来ていた。

それが、あれから1ヵ月後のこと。






俺はついにやってしまった。

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