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FRIENDs -ars短編集-

第4章 ここにおいで A×M

Mサイド


「あ、えっと…ありがとうございますっ!」


俺はその手からスマホを受け取って
咄嗟に走った。意味もなく。

とりあえず、必死に走った。


バイトに行かないとってことを理由にして。



あいつ、本当に何も覚えてなかったな…

目の端が熱くなったのを紛らわすように、
無心で、ただただ走る。


でも無心なんて出来なくて、
あいつの顔が思い浮かんでしまう。



そもそもなにから逃げて
なんで走っているのかもわからない。

なんであいつの顔が浮かぶのか。

こんなにも胸が痛いのか。


途中で人にぶつかったりもした。

おじさんの舌打ち。
キャッという女性の声。

怖くもなんともなかった。



俺は服の胸らへんをギュッと掴んだ。

ここだけは、どれだけ走っても
ちっとも紛らわせなかった。



気付けば家の前にいた。

バイト代で家賃を払っている
安いボロアパート。


バイト先に休むとの連絡を入れて
来いと言っている声も無視して電話を切った。



家に入ってソファにダイブする。

瞼の裏にまたあいつの顔が浮かぶ。


電話なんか来るはずもないのに、
スマホを握りしめて。
いつの間にか眠っていた。





起きたのは3時。

ちょうど面接まで1時間。


スーツに着替え、少し腫れぼったい
目の周りを解して目を見開く。

最後にニカッと笑って。


「よしっ」


と独り言を呟く。



ホントは全然良くない。

でも自分に言い聞かせて
ビシッとした格好で家を出る。


面接なんかいつも言うことはおんなじで、
なのに毎回緊張する。

緊張するとぶつぶつ呟くくせがあって
今日もずっと呪文のように呟く。




「はい。松本潤です。今回は御社で──」


いつもの文が浮かばない。

頭が真っ白になって、
そこに1つだけ浮かぶあいつの顔。


…またかよ。


「…どうしました?」

「あ、いえ。御社で働かせていただき──」






あぁ、この会社は…

…落ちるな。

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