テキストサイズ

密猟界

第1章 雨の中,傘のなか。

 チャンミンは、ユノを無視する様子でドンドンと足を早め、石の階段を上がって行った。急な斜面のように作られた階段は段差が低い。そこをチャンミンは2、3段飛ばす勢いで、駆け登って行く。パープルのチャンミンのスウェードのブーツが、駆け跳ね散らした雨の飛沫に、黒に近く、色濃く変わった。
「アッ…─!?」肘をとられたチャンミンが振り返るのと同時に、ユノの身体をひっぱり上げた。
 「済まない─です、ユノ…」チャンミンがユノの腕を両手で抱きしめた。
ユノは、チャンミンの肘に手を置いたまま、微笑ったが直ぐに眉を顰めた。
「ユノ」「うん」雨は銀の斜めの線になり、二人に降りそそぐ。
「ユノ、脚、痛むんでしょう」「少しね」ユノの身体に、ぴったりと寄り添い「こんな急なところなんて登ってきちゃって」「急に大雨になったから。平気だよ」すまなそうに項垂れるチャンミンの肩に、頭をのせるようにして、ユノは陽気に云ったが雨は冷ややかな、風も誘った。
 二人は傘を一本だけにして、石階段をゆっくりと、上がり始めた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ