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密猟界

第6章 闇の中の謝肉祭(カーニバル)Ⅱ

 柔らかな香り…頬をくすぐる春風─顔に手をやろうと、指先に触れる…。自分の叫び声に、跳ね起きた。
 「ユノ」─視界の隅に、黒縄そっくりの長い髪があった。「ウィッグですよ…具合どうですか」ため息をユノは吐く。
 「チャンミン」「はい?」「…俺…」「香水の匂いきつかったみたいですね。ユノ転んで─少し頭も打ったんでしょうか」銀の円柱の椅子に掛けて、「目眩おこして倒れたみたいで…、うなされてましたよ」「変な夢みて─香水?」頷くチャンミン。
 黒髪の束からユノは身を引く。「ユノそれいじってましたよ」「…眠りながら?」チャンミンは長い髪の端をつまみ上げた。「捨てろよ。そんなの─」「ただのウィッグですよ」ひきつったユノの顔に、「さっき、寝ながら触って…」ぽんとウィッグを引き出しに投げ入れ、「おかしなユノ」天井のライトに反射する金の髪……。
  ─のろのろと、ユノはチャンミンの横顔を見ながら、身を起こした。「ウィッグ、…なんで?」「いいじゃないですか、もう」隣にチャンミンは掛ける。「そう云えば─ユノは若い時、髪長くしてたけど…そのほうが、柔らかい感じです」「冷たい、キツい顔だからね」「優しいユノですよ」

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