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Best name ~ 追憶 ~

第1章 私の記憶

頭に浮かんだのは……両親の顔。


期待も……二度と会えるとも
思っていなかったけれど…


そう思いながら進み
面会室にテーブルをはさんで姿を現したのは





あの…ソウタさんだった。









『よぅ!久しぶりだな!』


『…。……』


『お前の父さん母さん忙し過ぎてナァ!
代わりに来ちまったぜ』



なんとなく……ウソだとわかってた。
私に会いに来ない両親を
上手く庇っていると。


『…どう…して…?』


ただただ、私は驚いていた。
両親を待っていた訳ではない。



どうしてこの人は、ここに……


私に会いに来てくれたのだろう、と。







そして、どこかで
少しだけ……恐かった。




私の隠してることを……何かを
聞かれるんじゃないかって。








だけど、そんなことはなかった。


ソウタさんは、ごくごく普通の世間話や
様々な話をしてくれただけだった。

限られた、短い面会時間で
『ごはんちゃんと食べてるか?』
だとか、それこそ……親のように

〃いつものソウタさん〃だった。






ずっと後になって知ったことだけど
面会は近親者…
身内以外は会えないハズなのに
一体どうやったのだろう?
謎の多いソウタさんなのだ。





それからソウタさんは
何度も面会に来てくれた。


仕事も忙しいハズなのに……


いつも、何度も


ろくに話すことも……笑いもしない
私のために…。



ソウタさんはいつも元気で笑ってくれている…

だけど私にはわかっていた…


その瞳の奥で
心配そうに私を見ているソウタさんを。



申し訳ない気持ちになる…。


どうしたら良いだろう。



せめて笑って……
安心させてあげるのが良いのかな…。



笑う……?







笑うって……



……どうやるんだっけ。










そう……私は

笑い方がわからなくなっていた。





呑気にのびのびと…幸せに育った私は
意識して笑ったことなどない
それだけかもしれない。




〃笑わなくちゃ〃

なんて思って笑ったことがない私は……

笑い方がわからなかった。





……。



『…ごめんなさい……ソウタさん』






それが精一杯だった、

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