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Best name ~ 追憶 ~

第1章 私の記憶

『ママはアイルがキライなんだ。
だからいつもアイルをおこるんだ』


ありがちな子どもらしい
もっともらしい、幼い私のある日の言葉。


そんな言葉にも祖父は真面目に優しく答える。



『うん、違うよアイル。
ママはね…アイルが大好きだから

アイルが大きくなってから困らないように
立派な人になれるように
一生懸命なんだよ』



幼い私には
ちゃんと理解出来ていなかった。

ただ、大好きなおじいちゃんの言うことだから
嘘はないだろう
そう思って、ただ素直に聞いていた。




私に、いささか 厳しかった母。

優等生、そのものだった母は
大学在学中に私を妊娠
父と学生結婚して、私を出産。
休むことなく働き、キャリアを積み上げた。


彼女にとって私を妊娠したことは
本当に予定外だったことと思う。

でも母は、私を堕胎しなかった。


今の私の歳で、すでに私を生み
育てていたと思うと
とてつもなく圧倒されてしまう。

私なんかとは似ても似付かない
パワフルというか、屈強な母だ。


私なりに母を心から尊敬している。



お茶にお華…書道
ピアノに学習塾……
私にありとあらゆる習い事をさせた母。

見込のないもの、伸びの悪いものは
すぐにやめさせる
見極めの良さ

思えば、有能な母ならではの手腕だ。


若くして産んだから躾がなってない、だとか

一人っ子だからワガママだ、とか…


そんなレッテルを貼られるような子であってほしくない……。

母なりの、そんな思いがあったのかもしれない。


それを祖父は知っていたから
私に諭してくれたのかもしれない。


今の私は、そんな風に思う。

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