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Best name ~ 追憶 ~

第2章 私の希望

「声が小さい。番号、元へ」


朝の点呼で
私の声が小さい、と
連帯責任でやり直しがかかってしまった。


「チッ…根暗が一人いると
朝からマジかったるい」


職員が去るとヤンキーを初め
女の子たちが露骨に私を咎め立てる。


「おい〃能面〃!
オマエこっちの掃除もやれよなっ!」

『・・・』



「…チッ」




バシ…っ。



『・・・』



掃除の時間になれば
顔に雑巾を投げつけられたり



『……っ』


「…チンタラ歩いてんじゃねぇよブス!」




移動中に脚をかけて私を転ばず子がいたり




『・・・』

「〃能面〃オマエ離れてろよな
気分ワルイ…」



就寝時間に私の布団をひっくり返して
隅に追いやる子…


相部屋のほとんどの子が
笑いも……喋りもしない私を〃能面〃と呼んだ。





私も……良くない。

それは、わかっていた。



この時の私の気持ち……みたいなものは
少し…上手く言い表せない。



同い年くらいの女の子たちの中にいて
変な目立ち方…
目を付けられるようなことをしたら
良いことはない

それくらい
いくら私でもわかっていたのだと思うけど


すっかり人嫌いになっていたのか
人に歩み寄る事が怖かったのか


それさえも考えず
ただ無気力で面倒だったのか…


人に気を遣うというか
心を開く気がまったくなかったのかもしれない。







覚えているのは
何も〃望むこと〃がなかった…それだけ。



涙はすべて流しきってから家を出たから

私はもう泣かなかったし

辛くはなかった…

涙も……でなかった。


つらいんじゃ……ない


悲しくも、ない。



ただ〃無〃だった。




彼女らがつけた

「能面」

という呼び方は


そんな私にピッタリの

「新しい名前」


だったかもしれない。

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