テキストサイズ

華は儚く美しく

第2章 桜色の想い

「右佐! お前は、死ぬ気か」

 父上の声だった。

「離せ! 中に桜がきっといるんだ」

「さっきの言葉、返してやる! それがどうした!? 今度は離さないぞ」

 父上はぎゅっときつく僕を掴んでいる。僕は父上の腕の中で暴れるが、それでも父上は怯まない。しかし、次第に頭が冷えていき、身体の力を抜いた。

「ごめん」

 ただ一言、僕は迷惑をかけてしまったことを謝る。

「いや、いいんだ。帰ろう」

 僕はただ頷くしか出来なかった。父上に手を引かれ本能寺を背に歩き出す。満月は炎とたくさんの血で紅く染まっていた。 

 伝えられなかった気持ち、桜色に染まる想い。涙が零れそうになったけど、僕は泣かない。

「ゆーうさ」

 そうやって、また笑顔であの桜の木の下に戻ってきてくれる日が来ると信じて。 チリンチリン……ふと鈴の音が聴こえた気がした。


End
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白いエモアイコン:共感したエモアイコン:なごんだエモアイコン:怖かった

ストーリーメニュー

TOPTOPへ