隣は空席のまま…
第8章 不安と天秤
私は…ちゃんと――――…愛していた
好きだった…
愛していた
奥さんより…愛していた…
でも――――…彼は
違っていた
ホタルがいつか言っていた…
「ベッドで愛を囁く男は、軽薄な奴が多い――――そりゃぁ、例外もいるだろうけど」
ホタルが正しいって――――…あの時は笑ったけど
今は…笑えない
前…住んでいたアパートを見上げると
涙が溢れて止まらない――――…
泣いて――――…この状況が良くなる事は無いのは解っている
でも、
私は愛していたと…
望んだ愛だと――――…叫びたかった
「――――愛して…いたんです」
かすれて何処にも届かない私の声は…あっという間に空気と混ざり消えた
すでに…私の部屋には誰かすんでいるのだろ…
窓には…私なら絶体選ばない色のカーテンが、住人の存在を主張していた
戻る場所は――――私には…もう
無い