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知らない世界

第5章 仲直りのお礼

部屋に戻ると、力尽きたかのように、ベッドに倒れこんだ。


「何だったんだ?」


何って、キスだよ。


「一体何が起きたんだ?」


だから櫻井さんとキスしたんだよ。
でも何で俺にキスしたんだ?
俺、男なんだけど、男の俺に何で?

かずが大人しく、高校生らしくなったから、そのお礼なのか?
でもそのお礼は、食事に連れていってもらったから違う。 
じゃあ何なんだろう。

でも櫻井さん、息も荒く、重なった唇も震えていた。
あんなにもカッコいい櫻井さんなら、キスの一つ二つ、三つや四つしているだろう。
ましてや綺麗なお姉さんと何と言うか、一杯ヤっちゃってるだろうし。
たった数秒キスしただけたのに、唇が震えるなんて・・・


「まだ唇の感覚、残ってる」


人差し指で唇をなぞった。


「俺のファーストキス・・・」


意外にも、これが俺のファーストキス。
てか、意外に思うかどうかは俺が決めることじゃないや。


「タバコの匂いとお酒の匂いがしたな」


そんなことを思い出しながら、唇を指で触れたまま、体を丸めて眠った。

それから櫻井さんから連絡が来ることは、なくなった。
俺もかずの家に行ったのは、あの日一度きりでだった。

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