夜空は百合の花を狂気的に愛す
第2章 オトギリソウ
しかし陽向は正義感が強い男だった。
「俺を無様にして気は済んだか?」
「うん、まあ、正直面白くってしょうがなかったよ。ああも思い通りにいくとはね。無様で無様で…ハハ可哀想」
心底笑えるかのように笑い飛ばす夜に腹が立ったが陽向は真っ直ぐな目で彼を見る。
「けど残念だったな」
「……は?」
「ユリはそんなことで離れる女じゃない。お前達だって好きなら分かるだろ。それに俺はこれからもユリから離れる気はない」
夜はぐっと唇を噛み締める。
薄々気づいていたからだ。優しいユリなら陽向のどんな姿を見たところで離れることなどないと。
しかし、男の方からなら離れると思っていた。無様な姿を見せたこともそうだが、ユリに近づくことで不幸になると知れば恐れて近づかなくなるだろうと思ったのだ。
(チッ…こんなんじゃこの男には足りなかったか。それなら一層殺してしまおうか)
夜の物騒な考えを他所に今までじっと黙っていただけの空が口を開いた。
「今日のユリ、こんなに暑いのに長袖を着てたね」
「は?」
いきなり突拍子もないことを双子の片割れが言い出すので陽向は間抜けな声を出した。
「なんでだと思う?」
「なんでって…日焼けしたくないからだろ」
「…そうかな。俺は何か見られたくないモノを隠しているように見えたけど」
どうゆう意味だ?と未だ疑問を巡らす陽向。
確かによく考えればいきなり日焼け対策とは不思議だ。元々ユリは焼けても黒くならない体質だし、今まで日焼けを気にしたことなど1度もない。