僕は君を連れてゆく
第12章 デリバリー攻略book
「いやぁ、うちのがすいませんでした。注文、間違えたみたいで…あいつ、バカなんでね。本当に…。」
水の入ったコップを持ちながら話しかけてきた。
「親父さんっ!バカは余計でしょ!もう!やめてよ!」
次々にみんなが俺に話しかけてくる。
まさきの友達か?
バカと付き合うとバカが移るぞ!とか。
「そんなことより!ねぇ!何食べる?」
俺にメニューを見せてきた?
「うーん。うーん。」
メニューとにらめっこ…
「お醤油ラーメンで!」
「はい!お醤油ラーメン、いっちょうぅぅ!って、結局、同じじゃん!」
「いいんだよ。ここのお醤油ラーメンが好きなんだから。」
なんとなく、腑に落ちないって顔して厨房へ行った。
他の客は、あれこれ、俺にまだ、話しかけてくる。
「あんた、きちんと、食べてるの?」
俺のとなりのテーブル席に座って煮玉子とチャーシューをつまみにビールを飲んでるおばはんが話しかけてくる。
「恋人は?」
「いや…」
やっぱり、この話になるよな…
「雅紀君なんてどうよ?」
え?
「雅紀君はソッチなんだよ。アンタもでしょ?」
え?
「あたし、わかんだよ。そういうの。雅紀君はオススメよ。あの子、面倒見いいからね。捨て猫だってきちんと飼い慣らすと思うわよ。」
と、グラスのなかのビールを飲み干した。
「もう、若くないんだから、欲しいものは自分で手を伸ばさないと。」
煮玉子を口に入れた。
「雅紀君、この彼にもビールだしてあげてよ!」
「はーい!言われなくてもそのつもりでーす。」
「いや、いいよ!」
厨房からトレーに瓶ビールとグラス、チャーシューにメンマ、煮玉子がのったお皿を乗せて俺のテーブルまで運んできた。
「俺からお詫びです。本当に申し訳有りませんでした。でも、来てくれて嬉しい!」
その顔は優しい笑顔で、優しい声で。
欲しいものは…
自分で…
俺はまた、この店に来る。
夕飯を食べに来たと言って。
彼の顔を見に来るんだ。
「あれ?降ってきてる!」
窓を叩きつける雨音がする。
あなたが、忘れていった傘を思い出した。
《End》